耐震補強工事とは?ビル・マンション所有者向けに費用相場・流れ・注意点を解説

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日本は世界有数の地震大国であり、いつ大規模な地震が発生してもおかしくありません。特に、旧耐震基準で建設されたビルやマンションは、大きな揺れに対して倒壊や甚大な被害を受けるリスクを抱えています。

本記事では、ビル・マンションの所有者様や所有企業様に向けて、大切な資産と人命を守るための「耐震補強工事」について、その必要性から種類、費用相場、工事の流れ、そして実施にあたっての注意点まで、詳しく解説します。

   

なぜ耐震補強工事が必要なのか?その重要性を解説

なぜ耐震補強工事が必要なのか?その重要性を解説  

近年、日本各地で大規模な地震が頻発しており、建物の耐震性に対する関心はますます高まっています。特に、多くの人々が利用するビルやマンションにおいては、耐震性の確保は喫緊の課題です。なぜ今、耐震補強工事が必要不可欠なのか、その理由と重要性を掘り下げていきましょう。

 

旧耐震基準と新耐震基準

日本の建築基準法における耐震基準は、大きな地震被害を教訓に改正されてきました。特に重要なのが、1981年(昭和56年)6月1日の建築基準法改正です。この日を境に、それ以前の基準を「旧耐震基準」、それ以降の基準を「新耐震基準」と呼びます。

 

旧耐震基準(~1981年5月31日)

震度5強程度の揺れ(中地震)に対して、建物が倒壊・崩壊しないことを基準としていました。しかし、それ以上の大きな揺れ(大地震)に対する規定は明確ではありませんでした。

 

新耐震基準(1981年6月1日~)

中地震に対してほとんど損傷しないことに加え、震度6強から7程度の大地震に対しても、人命に危害を及ぼすような倒壊・崩壊をしないことを求めています。

1995年の阪神・淡路大震災では、旧耐震基準で建てられた建物に被害が集中したことが明らかになりました。この事実からも、旧耐震基準の建物は、大地震に対して脆弱である可能性が高いと言えます。

 

地震大国日本における耐震補強の社会的責務と事業継続性

日本に住む以上、地震のリスクから逃れることはできません。ビルやマンションの所有者は、入居者や利用者の生命・身体の安全を守るという重大な社会的責務を負っています。万が一、所有する建物が地震によって倒壊し、人的被害が発生した場合、所有者は法的・道義的な責任を問われる可能性があります。

さらに、企業が所有するビルにおいては、地震による建物の損壊は事業継続性に深刻な影響を及ぼします。

 

従業員の安全確保

従業員が安心して働ける環境を提供できなくなります。

 

事業の中断

オフィスの機能停止、設備の破損などにより、事業活動が長期間ストップする可能性があります。

 

社会的信用の失墜

安全対策を怠っていたとみなされれば、企業の評判やブランドイメージが大きく損なわれます。

 

資産価値の低下

被災した建物は、当然ながらその資産価値が大きく下落します。

耐震補強工事は、こうしたリスクを低減し、人命保護という社会的責務を果たすと同時に、事業継続計画(BCP)の観点からも極めて重要な投資と言えるのです。

 

法改正と耐震診断義務化の現状

国や自治体も、建物の耐震化を強力に推進しています。その根拠となるのが「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」です。この法律は、特に多数の人が利用する大規模な建築物などについて、耐震診断とその結果の報告を義務付けることを定めています。

 

【耐震診断が義務化される主な対象建物】

(要件は自治体により異なる場合があります)

 

■特定既存耐震不適格建築物
・病院、店舗、旅館など、不特定多数の者が利用する大規模建築物(例:3階建て以上かつ床面積5,000㎡以上など)
・小学校、老人ホームなど、避難弱者が利用する一定規模以上の建築物
・火薬類や石油類など、危険物を貯蔵・処理する一定量以上の施設

■要緊急安全確認大規模建築物
上記のうち、特に耐震診断が急がれるものとして政令で定められた規模以上のもの。

■要安全確認計画記載建築物(通行障害建築物)
都道府県や市町村が指定する緊急輸送道路や避難路等の沿道にある、一定の高さ以上の旧耐震基準の建築物で、倒壊した場合に道路を閉塞する恐れのあるもの。

これらの対象となる建物の所有者は、定められた期限までに耐震診断を行い、その結果を所管行政庁(都道府県や市町村)に報告する義務があります。報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりした場合には、罰則が科される可能性もあります。また、診断結果は公表されることが原則となっているため、耐震性が低いと判断された場合、建物の利用や資産価値に影響が出ることも考えられます。

参照:国土交通省 建築物の耐震改修の促進に関する法律等

   

【建物別】耐震補強工事の種類と費用相場

耐震補強工事と一口に言っても、建物の構造(木造、RC造、S造)や現在の耐震性能、目標とする耐震レベルによって、採用される工法や費用は大きく異なります。ここでは、ビルやマンションで一般的なRC造とS造を中心に、主な工法と費用相場を見ていきましょう。

 

鉄筋コンクリート造(RC造)の耐震補強

RC造のビルやマンションでよく用いられる主な耐震補強工法は以下の通りです。

 

1.耐震壁の増設・補強

既存の壁の厚みを増したり、新たに鉄筋コンクリート製の壁(耐震壁)を設置したりして、建物の水平方向の力(地震力)に対する抵抗力を高めます。開口部(窓など)を塞いで壁にする場合もあります。

【特徴】耐震性能の向上効果が高い工法の一つですが、建物の内部空間や採光・通風に影響を与える可能性があります。外付けで鉄骨ブレースを設置する方法もあります。

【費用相場】比較的大規模な工事になることが多く、数千万円~数億円規模になることもあります。㎡単価で10万円~30万円程度が目安ですが、条件により大きく変動します。

 

2.柱の補強(靭性(じんせい)の向上)

既存の柱の周りに鋼板を巻き付けたり、炭素繊維シートやアラミド繊維シートを巻き付けたりして、柱が地震の揺れによって破壊されるのを防ぎ、粘り強さ(靭性)を高めます。

【特徴】柱のせん断破壊を防ぐのに効果的です。既存の仕上げ材を撤去・復旧する工事が必要になります。比較的、内部空間への影響は少ない工法です。

【用相場】補強する柱の本数や太さ、工法によりますが、柱1本あたり数百万円程度から。㎡単価では5万円~15万円程度が目安です。

 

3.基礎の補強

既存の基礎の幅や深さを増したり、杭基礎の場合は杭を増設したりして、建物全体の揺れに対する安定性を高めます。

【特徴】地盤の状態や建物の重量によっては、非常に重要な補強となります。掘削作業が必要になるため、工事期間や費用が増加する傾向があります。

【費用相場】建物の規模や基礎の状態、地盤状況により大きく変動します。数千万円以上かかるケースも少なくありません。

 

4.その他

スリット(構造体間の縁を切る)、あと施工アンカーによる部材接合強化など、様々な工法が建物の状況に応じて組み合わせて用いられます。

 

鉄骨造(S造)の耐震補強

S造のビルや工場、倉庫などで用いられる主な耐震補強工法です。

 

1.ブレース(筋交い)の追加・補強

柱と梁で構成されるフレーム内に、鋼材のブレース(斜め材)を追加・増設したり、既存のブレースをより強度の高いものに交換したりして、水平力に対する剛性・耐力を高めます。

【特徴】耐震性能向上効果が高く、比較的多くのS造建物で採用されています。ブレースの形状や配置によって、意匠性や内部空間の利用に影響が出ることがあります。

【費用相場】 ブレースを設置する箇所数や規模によりますが、RC造の壁増設よりは費用を抑えられる傾向があります。㎡単価で5万円~20万円程度が目安です。

 

2.接合部の強化

柱と梁、ブレースと柱・梁などの接合部分(仕口)に、補強プレートを追加したり、高力ボルトを増し締めしたり、溶接を補強したりして、接合部の強度を高めます。

【特徴】地震時には接合部に大きな力がかかるため、重要な補強ポイントです。比較的ピンポイントな補強が可能です。

【費用相相場】補強箇所数や方法によりますが、他の大規模な補強と比べると費用は抑えられます。

 

3.柱・梁(フレーム)の補強

既存の柱や梁に鋼板を添えたり、新たな部材を追加したりして、部材そのものの強度や剛性を高めます。

【特徴】 特定の部材の強度が不足している場合に有効です。

【費用相場】 補強する部材の大きさや長さ、工法によります。

 

費用に関する注意点
上記費用相場はあくまで目安です。実際の費用は、建物の規模、構造、現在の劣化状況、選択する工法、工事の難易度、地域、さらには工事中の仮設や仕上げの復旧範囲など、多くの要因によって大きく変動します。正確な費用を知るためには、専門家による耐震診断と、それに基づいた補強計画・見積もりが必要です。また、国や地方自治体によっては、耐震診断や耐震補強工事に対する補助金制度が設けられている場合がありますので、積極的に活用を検討しましょう。

   

耐震補強工事の流れ

耐震補強工事の流れ

耐震補強工事は、思い立ってすぐに始められるものではありません。建物の現状を正確に把握し、適切な計画を立て、信頼できる業者を選定するという、段階的なプロセスが必要です。ここでは、一般的な耐震補強工事の流れを4つのステップに分けて解説します。

 

ステップ1:耐震診断による現状把握と課題の明確化

まず、対象となるビルやマンションが、現在の耐震基準に対してどの程度の耐震性能を持っているのかを科学的・客観的に評価します。これにより、耐震補強工事の必要性や、補強すべき箇所(弱点)を明確にします。

 

1.予備調査

設計図書の確認、建築年月、増改築履歴、過去の被災履歴などを調査します。

 

2.現地調査

実際に建物を訪れ、目視によるひび割れ、鉄筋の露出、コンクリートの劣化状況、柱・梁・壁の配置、建物の傾きなどを確認します。必要に応じて、コンクリートの強度試験や鉄筋の配筋調査(非破壊検査など)も行います。

 

3.構造計算

設計図書と現地調査の結果に基づき、専門的な構造計算ソフトなどを用いて、地震に対する建物の強度(耐力)と粘り強さ(靭性)を評価します。一般的に「Is値(構造耐震指標)」という指標で評価され、この値が低いほど耐震性が低いと判断されます。

 

4.評価と報告

算出されたIs値などを基に、建物の耐震性能を評価し、結果を報告書にまとめます。報告書には、耐震性が不足している場合の補強の必要性や、具体的な弱点箇所などが記載されます。

耐震診断は、建築士や構造設計の専門家など、資格と経験を持つ専門業者に依頼する必要があります。複数の業者から見積もりを取り、実績や提案内容を比較検討しましょう。

 

ステップ2:補強計画の策定と設計

耐震診断の結果に基づき、目標とする耐震性能(どの程度の地震に耐えられるようにするか)を設定し、それを達成するための具体的な補強方法、工事範囲、概算費用などを盛り込んだ計画を立て、詳細な設計図を作成します。

 

1.目標性能の設定

建築基準法で求められる最低限のレベルにするのか、それ以上の安全性を確保するのか、予算や建物の用途などを考慮して目標を定めます。

 

2.補強方法の検討・選定

耐震診断で明らかになった弱点を補強するため、前述したような様々な工法(壁増設、柱補強、ブレース追加など)の中から、建物の状況、コスト、工期、工事中の影響などを総合的に比較検討し、最適な組み合わせを選定します。複数の案が提示されることもあります。

 

3.補強設計(実施設計)

選定された工法に基づき、具体的な部材の寸法、材質、接合方法などを詳細に記した設計図(構造図、意匠図、設備図など)や仕様書を作成します。工事費用の積算もこの段階でより詳細に行われます。

 

4.関係機関との協議・確認申請

必要に応じて、建築基準法に基づく確認申請や、その他の関連法規に基づく手続きを行います。補助金を利用する場合は、この段階で申請準備を進めることも重要です。

所有者の意向(予算、工事中の影響、デザインなど)を設計者にしっかりと伝え、実現可能な計画を練ることが重要です。設計段階での十分な検討が、後のトラブルを防ぎます。

 

ステップ3:施工業者の選定と契約

策定された補強計画・設計に基づき、実際に耐震補強工事を行う施工業者を選定し、工事請負契約を締結します。

 

1.施工業者の選定

設計図書を基に、複数の施工業者に見積もりを依頼します(相見積もり)。耐震補強工事の実績が豊富で、技術力、経営状況、安全管理体制などが信頼できる業者を選定することが重要です。設計事務所が施工業者選定をサポートする場合もあります。

 

2.見積内容の比較検討

単に金額だけでなく、工事内容、使用材料、工期、保証内容、安全対策などを詳細に比較検討します。不明な点や疑問点は、必ず業者に確認しましょう。

 

3.契約の締結

工事内容、請負代金、支払条件、工期、遅延した場合の対応、瑕疵担保責任(契約不適合責任)などを明確に定めた工事請負契約書を作成し、契約を締結します。契約書の内容は専門家(弁護士など)に確認してもらうとより安心です。

安さだけで業者を選ばず、信頼性と技術力を重視することが、質の高い工事と将来的な安心につながります。

 

ステップ4:耐震補強工事の実施と工事監理

契約に基づき、実際に耐震補強工事を進めます。同時に、工事が設計図書通りに、かつ適切に行われているかをチェック(工事監理)します。

 

1.着工準備

近隣への挨拶、工事説明会の開催(特にマンションの場合)、仮設計画(足場、養生など)、資材搬入経路の確保などを行います。

 

2.耐震補強工事の実施

設計図書と工程表に従い、安全管理・品質管理を徹底しながら工事を進めます。騒音、振動、粉塵などが発生するため、居住者やテナント、近隣への配慮が不可欠です。

 

3.工事監理

設計者(建築士など)が、工事が設計図書通りに進められているか、品質基準を満たしているかなどを現場で確認・指導します。所有者側も、定期的に進捗状況を確認することが望ましいです。

 

4.検査

工事が完了したら、施工業者による自主検査、工事監理者による完了検査、そして場合によっては行政機関による完了検査が行われます。

 

5.引き渡し

全ての検査に合格し、手直し工事などが完了したら、建物が所有者に引き渡されます。関連書類(保証書、工事記録写真など)も受け取ります。

工事期間中は、居住者やテナントとのコミュニケーションを密にし、理解と協力を得ることが円滑な工事進行の鍵となります。工事監理者との連携も重要です。

   

耐震補強工事を行う際の注意点とリスク

耐震補強工事は、建物の安全性を高める上で非常に有効ですが、実施にあたってはいくつかの注意点やリスクも伴います。事前にこれらを理解し、適切な対策を講じることが重要です。

 

工事期間中の生活・事業への影響と対策

耐震補強工事の期間中は、騒音、振動、粉塵の発生や、工事車両・作業員の出入り、敷地内の利用制限などが避けられません。特に、居住中のマンションや稼働中のオフィスビルでは、日常生活や事業活動への影響が懸念されます。これらの影響を最小限に抑えるためには、工事の目的、期間、具体的な作業内容、予想される影響と安全対策について、居住者やテナントへ事前に丁寧な説明を行い、理解と協力を得ることが最も重要です。

また、騒音・振動が大きい作業の時間帯を調整したり、プライバシーに配慮して専有部分への立ち入りスケジュールを調整したりするなど、計画段階からの配慮と、工事期間中の継続的な情報共有が求められます。

 

費用超過や追加工事のリスクと適切な見積もりの重要性

耐震補強工事では、当初の見積もり額を超過するリスクや、予定外の追加工事が発生する可能性があります。主な原因としては、解体後に判明する躯体の想定外の劣化や損傷、あるいは工事途中でより効果的な工法への設計変更などが挙げられます。こうしたリスクに備えるためには、まず、可能な限り詳細な事前調査(耐震診断を含む)に基づいた、工事項目や数量、単価が明記された詳細な見積書を取得することが重要です。

「一式」といった曖昧な見積もりは避け、内訳を確認しましょう。また、万一に備え、工事費の一定割合(例:10~15%)を予備費として予算に組み込んでおくこと、そして追加工事や設計変更が発生した場合の費用負担や手続きについて、契約書で明確に定めておくことが不可欠です。信頼できる業者選定もリスク軽減につながります。

 

マンションにおける合意形成の難しさと進め方

分譲マンションで耐震補強工事を実施する上で最大の障壁となりやすいのが、区分所有者間の合意形成です。工事費用は区分所有者の負担となるため、特に経済的な懸念から反対意見が出やすいほか、工事の必要性や効果に対する理解度の差、工事期間中の生活への影響を心配する声も少なくありません。多くの場合、総会での特別決議(区分所有者数および議決権の各4分の3以上の賛成)が必要となるため、合意形成プロセスには多大な労力と時間を要します。

円滑に進めるためには、早期段階から地震リスクや工事の必要性・メリット(安全性向上、資産価値維持)に関する情報を粘り強く提供し、意識啓発を図ることが基本です。管理会社やマンション管理士、建築士といった専門家を活用し、客観的な情報提供やアドバイスを得ることも有効でしょう。また、修繕積立金の活用や補助金制度の調査・申請といった費用負担軽減策の検討や、まずは耐震診断の実施から合意を目指すといった段階的なアプローチも検討に値します。何よりも、反対意見にも耳を傾け、疑問や不安に応える丁寧な対話を重ねることが重要です。

   

耐震補強工事は山市成工にお任せください

山市成工は鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨造(S造)など様々な構造の建物に対応した耐震補強工事を手がけています。ピタコラム工法(鋼板内蔵RCブレース)やトグル工法(増幅機構付油圧制震工法)、RC耐震壁増設など、最新の技術を駆使し、建物の特性に合わせた最適な工法をご提案可能です。

まずは、お客様の建物の状況や耐震に関するご心配事についてお聞かせください。専門家が耐震診断の必要性や進め方、概算費用などを丁寧にご説明し、最適なステップをご提案させていただきます。

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